【読了レポ】対岸の彼女/角田光代
「私って、いったいいつまで私のまんまなんだろう。」
表紙をめくり、この一文目を見た瞬間、「この作品を読んでみたい」と感じました。
この作品は、主人公である小夜子が、様々な人との出会いを通して自分自身と向き合っていく物語です。
小夜子は幼い娘を持つ専業主婦で、「ママ友グループ」のような関係に煩わしさを感じる一方、その関係をはっきり断ち切れるほどの勇気や決断力は持ち合わせていないような、いわば中途半端な性格。
そんな小夜子は、育児に非協力的な夫や嫌味な姑に対しても、我慢することしかできませんでした。
「私って、いったいいつまで私のまんまなんだろう。」
冒頭の一文はそんな小夜子の心情です。
この言葉に表れている通り、彼女自身もその中途半端な性格に嫌悪感を抱いていました。
そんな小夜子が現状を少しでも変えようと取った手段が再就職でした。
そこで出会うのが、女社長の葵。
葵は、とにかく明るく、思い立ったらまず行動をするような、小夜子とは対照的な性格の持ち主。
ただ、そんな葵も、もとより「とにかく明るい」ような性格であったわけではなく、学生時代の、あるひとりの友人との経験が彼女を変えていたのでした。
この作品は、小夜子視点で語られる小夜子と葵を中心とした現在の話と、
葵視点で語られる葵と「あるひとりの友人」を中心とした過去の話が並行展開されていきます。
「私って、いったいいつまで私のまんまなんだろう。」
この一言にはそれら二つの、彼女たち二人の物語が凝縮されています。
大人になるに従って増えていく社会との関わり、その中で霞んでいく本当の自分。
日々感じている窮屈さやジレンマと改めて向き合うきっかけになり、また、そんな所存のない心に寄り添ってくれる作品です。
今に違和感を感じている方や、何か少しでも変わりたい方におすすめです。
(ちなみに、わたしはこの作品を読んで転職を決意しました。)
ご覧いただきありがとうございました。
以上です!